『高校化学は覚えることが多くて・・・』
このセリフを受験生から聞くときは、その多くが無機化学のことを指しているように思います。
実際は有機化学もかなり覚えることが多いのですが、有機化学は暗記するべき内容が構造式を伴って出てくるため、無機化学に比べて覚えやすいのであまり皆さん暗記に困っていないように感じます。
無機化学で覚えなければいけないとされているのは化学反応式と沈殿物の生成やその色です。
これらは量も多いうえに、一見すると脈絡がなく機械的に覚えなけばいけないと考える受験生が多いことでしょう。
また、高校の化学の先生も覚えるべき内容として指導するケースも多いようで、まじめな受験生は暗記に走る傾向にあるようです。
実際私も受験生時代、無機化学の暗記事項には苦労しました。
『こんなもの覚えれるわけがない』
なんて思っていましたし、実際全部覚えきれたわけではありません。
そうは言っても放置していいものではありませんので、少しでも負担を軽減する方法をお話していきたいと思います。
目次
- ○ 化学反応式は覚えない
- ・銅と濃硝酸
- ・銅と希硝酸
- ○ 反応式の暗記は興味を持つことが大切
- ○ 沈殿とその色は…
- ○ 最後に
化学反応式は覚えない
いきなり変なことを書いているように思いますが、化学反応式を丸暗記することをしないと言う意味だととらえてください。
もちろん基本的な反応式は覚えなければいけないのですが、かなりの数の反応式は重要な場所を覚えておけば後は何とか作れるようになっています。
例えば銅と硝酸の反応を例に挙げてみましょう。
濃硝酸 Cu + 4HNO₃ → Cu(NO₃)₂ + 2H₂O + 2NO₂
希硝酸 3Cu + 8HNO₃ → 3Cu(NO₃)₂ + 4H₂O + 2NO
結構複雑で、丸覚えした人もいるかもしれませんが、私は覚えていません。
実際に化学の授業をする際にも覚えていないので『なんだっけー』とか言いながら授業中に生徒と一緒に作っています。
この反応式を覚えるうえで必要なことって何でしょうか?
銅と希硝酸を反応させることはおそらく問題文に書いてあると思います。
となると、最低限覚えておかなければいけないことは、生成物としてCu(NO₃)₂ ・H₂O・NOやNO₂が出来ることでしょう。
でもまぁCu(NO₃)₂については高校生なら容易に想像できるでしょうから、実際に覚えることはH₂O・NOやNO₂が出来るということになるとおもいます。
銅と濃硝酸
銅と濃硝酸の反応で覚えるべきは①の式だけです
① HNO₃ + H⁺ + e⁻ → NO₂ + H₂O
② Cu → Cu²⁺ + 2e⁻
①×2+②より次のような式が出来ます。
Cu + 2HNO₃ + 2H⁺ → Cu²⁺ + 2NO₂ + 2H₂O
ここでなんか不自然に見える 2H⁺ですが、これは硝酸から遊離してきたものなのは明白なので、両辺にNO₃⁻を2つ加えてあげましょう。
すると
Cu + 4HNO₃ → Cu(NO₃)₂ + 2H₂O + 2NO₂
この式が完成します。
銅と希硝酸
次に希硝酸ですが濃硝酸と同様覚えるのは③の式だけです。
③ HNO₃ + 3H⁺ + 3e⁻ → NO + 2H₂O
④ Cu → Cu²⁺ + 2e⁻
①×3+②×2 より、
3Cu + 2HNO₃ + 6H⁺ → 3Cu²⁺ + 2NO + 4H₂O
これも最後にNO₃⁻を付け加えて
3Cu + 8HNO₃ → 3Cu(NO₃)₂ + 2NO + 4H₂O
で完成となります。
反応式の暗記は興味を持つことが大切
何事もそうですが、単純記憶ほどつらいものはありません。
反応式の暗記は、一つ一つ自分で半反応式から作って行けば何とか覚えていけると思います。
それでも数は多いので、似たような反応式はひとまとめにして比較しながら覚えていくのが良いでしょう。
今回は希硝酸・濃硝酸と銅との反応を扱いましたが、無機化学の勉強が進んでいる人なら硫酸は?塩酸は?と言う疑問が出てくるかもしれません。
そうなれば最高です。
ちなみに銅は通常の酸とは反応せず、酸化還元反応をする金属となるため塩酸や希硫酸とは反応しません。
半面酸化力をもつ熱濃硫酸とは反応しますので、硝酸と一緒に覚えてしまうとよいでしょう。
沈殿とその色は…
化学式に関しては、上記のように考えることで有機化学同様覚えることに対する負担を軽減できるのではないかと思います。
最後の難関は『生成物が沈殿するかどうか』『沈殿物の色』になるでしょう。
残念ながら、これらの現象に関しては高校の範囲で理論的に説明することが困難なため機械的に覚えるしかありません。
ただし、それでもある程度は周期表から推測することが出来ます。
まずは大まかに周期表と照らし合わせながら整理しましょう。
学校で配られる資料集などにも表などが記載されているかと思いますが、私は自分で表を作ることをお勧めします。
表を作ったら、ある程度規則性が見えてくると思いますので、あとは規則に従ってくれない例外的なものを覚えていくとよいでしょう。
覚え方は、なんでもいいと思います。(私は高校生の頃はゴロを作って頑張っていました)
今の時代はインターネットで検索すれば様々な語呂合わせが出てくると思います。
自分で作った表に、気に入った語呂合わせを書き込んだオリジナルの暗記表を作れば何とか乗り切れることでしょう。
最後に
もしも大学で化学を学ぼうと思っている方は、『無機化学のような単純な暗記なんか大学ではいらない』と言うことを知っておいてください。
大学で取り扱う化合物は未知なる可能性もあります。
正直色とか沈殿するかなんてその都度調べれば事足ります。
化学の本質は、覚えることにあるのでは決してありません。
目に見えない未知の物質に対して、構造的にまた電子的に思いをはせ、検証のために実験をすることこそ化学の神髄です。
また、高校生の時は覚えるしかなかった例外的な現象であっても、その本質を学ぶことによって理解することもできます。
『今は覚えるしかないが、大学に行けば理由を知ることが出来る』
と思いながら学んでいただければと願います。